ブログ
縁側
私の家に縁側はなかった。8畳くらいの部屋にゴザを敷いて生活していた。 畳がないので何畳だったかは判然としない。 だが友達の西村君の家には長い縁側があった。広い廊下には天井まで 届く本棚があり、少年雑誌や漫画がものすごくたくさんあった。西村君の お父さんはお医者さんで、口ひげを蓄えた上品そうな人だった。終戦 直後の家に水洗便所があったのだからかなりの金持ちだったのだろう。 私は西村君がいなくてもこの縁側に出入りして飽くことなく本を読み あさった。ロビン・フッドという英雄に出会ったのも、鉄腕アトムに興奮した のもこの縁側であった。入り口に黒い犬がいて怖かったことを除けば申し 分のない私の「書斎」だった。時々上品な西村君のお母さんがお茶と お菓子をくれる。積み木も沢山あったので西村君がいなくても一人で 遊んだ。縁側の前には広い庭があり築山があった。 築山の向こうは勝田という高校の先生の家だった。勝田先生の息子も 私の友達だったがこの家はひっそりとして私を拒絶しているみたいだった。 ある日上品に見えた西村君のおとうさんが無茶苦茶に激高して、 西村君の頭を足蹴にするのを見た。何がなんだか分からなかったが 「大人を顔で判断してはいかんな」 とその時悟った。 3人兄弟で上の二人は医者になったが西村君は小さなDPEに就職した。 親に言わせれば「一番出来が悪かった」と言うことなのだろう。 でも私はいつも彼の育ちの良さに微かな嫉妬を覚えていたようだ。 悪びれない、せこくない、意地悪をしない、他人をうらやまない、 何よりかわいかった。 もう半世紀も会ってない。どうしているだろう。世間の垢にまみれ普通の おじいさんになっているのだろうか。会って話をしたいとは思わないが、 彼の今の生活をこっそり覗いてみたいものだ。
投稿日 : 2009年8月30日 (日)
コメントの投稿
コメントの削除
|
|
|