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うどん

もの悲しい鐘の音が夜の町を通り過ぎる。
カラン、カラン。カラン・・・屋台の引き棒にぶら下げられた鐘の音がゆっくりと遠ざかる。
私は母の顔色を見る。
「行っといで」
縫い物をしていた母は微笑む。
私は脱兎のごとく飛び出して屋台に向かって叫ぶ。
「おじさん!うどん二つ!」
一杯15円だった。蕎麦は20円だったと記憶している。
私の古里ではこの屋台を「夜泣きうどん」と呼んだ。舗装していない路地裏の道をゴトゴトと流して歩く
屋台の鐘は泣いているように聞こえたからであろうか?
貧しかったので夜泣きうどん一杯でも滅多に食べられなかった。
「これを縫ったら300円になる。そしたら学校へ給食のお金を持って行けるよ」
そんな母の声を聞きながら腹一杯になった私は裁縫台の下でうつらうつらする。
母がそっと小さな布団を掛けてくれる。
遠く懐かしい冬の夜の思い出である。

投稿日 : 2009年8月29日 (土)

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